「緊張する自分」を受け入れる――オリンピアンを支えたマインドフルネスの考え

マインドフルネスの研究が盛んだ。様々な定義があるだろうが、マインドフルネスとは、「今、ここ」に集中する技術とここでは捉える。

そこで、今回はデンマークのナショナルチームが、オリンピックに向けて、マインドフルネスを導入した事例を踏まえた記事を書いてみたい。デンマークはトップパフォーマンスとメンタルの関係性を重要視しており、独自の取り組みを行なっている。

おしゃべりな思考、ゆらぐ感情

脳はずっと何かを考えている。おしゃべりでない私ですら、頭の中では「お腹が空いた」、「カレーの匂いがするな」、「あれ、明日ミーティング何時からだっけ?」など、思考の垂れ流し状態だ。人は基本的に「思考を止める」ことができない。もしくは、とても難しい。脳は外からの刺激に何でも反応する臓器、とすら言われているのだ。

スポーツの例で考えてみよう。プレッシャーのかかる場面では、「ネガティブな考え」や、「後ろ向きな考え」が頭をよぎる。「このピッチャー苦手なんだよなぁ」と、後ろ向きになったり、逆に「このセットを取れば勝てるかも」と勝ちを意識して、気持ちが緩むこともある。その時、どうするか?前向きな感情に変えようとしたり、そもそも思考を止めようとしていないだろうか?だけど、やっぱり、一度考えてしまうと、その考えに取り憑かれてしまうことは、ないだろうか。

画像
今までは、メンタルの「強さ」が強調されていたが、近年は「柔軟さ=Flixibility」が重要視されている。「良くない考え」を変えるのではなく、受け入れた上で、自分らしく振る舞う重要性が注目されている

私が今回読んだ事例は、あるデンマーク人の競泳選手の話である。彼女は世代トップの選手として注目されており、リレー選手として世界でも表彰台に上がっていた。その後、ある時を境にモチベーションの低下が徐々に顕在化し、スポーツ心理士に助けを求めるという話である。担当になったスポーツ心理士は、彼女やコーチと綿密な対話を重ね、マインドフルネスを通じて、オリンピックでの活躍を支援することになる。その際に取り入れられた、マインドフルネスの内容について書いてみる。

準備:自分にとって大切なコトは何か?

マインドフルネスは、選手にとって大切な価値観を探すことから始まる。この価値観とは、人生におけるコンパスのような存在だ。つまり迷った時に、選ぶ基準こそがこの価値観だと思っている。私の場合は、安定して先の見える安心な未来より、多少のリスクはありながらも、不確実性の高い未来を選びがちなので、大切な価値観として「Curiosity:好奇心」などが入ってくるといった具合だ。この人生のコンパスを探るために、以下のような質問も役に立つかもしれない。

・人生にとって大切なことは何か?
・自分にとって価値のあると思う時間は何か?
・人として、あるいは競技者として、どのような資質を高めていきたいか?

マインドフルネス:「今、ここ」に生きる

マインドフルネスのやり方は決して一つではない。ここでは、あくまで一例として紹介しておくが、基本となるのは3Rといわれている。それが、以下の3つのステップである。

Register:思考・感情を眺める
Release:思考・感情を受け入れる
Refocus:今、ここに集中する

Register:思考・感情を眺める 
頭に浮かぶ思考や、感情を眺めてみよう。自分の感情や、考えだけでなく、「遠くで鳥の鳴き声がするなぁ」とか、「話し声が聞こえるなぁ」など、気づくことや、感じることは何でもいい。この時、第三者の立場から観察するのも良いといわれている。つまり、私は「自分は落ちこぼれだという思考を持っている選手である」といった具合だ。

Release:思考・感情を受け入れる
浮かんできた思考や、感情について「良い」「悪い」の判断をしないこと。感情は生存本能として備わった機能ともいわれており、そもそも、「良い」「悪い」思考や感情はないとも言える。「ああ、自分はこういうことを考えてるんだなぁ」とか、「こう感じてるんだなぁ」と、ただただ自分を受け入れてあげることだ。大切な人が悩みを相談してきたら、頭ごなしに否定したりしませんよね?その人の思いに寄り添ってあげるのと同じように、自分こそが最大の理解者であり、最も信頼できる味方として、自分を受け入れてみてください。

Refocus:今、ここに集中する
思考や、感情を受け入れた上で、今、ここに集中する。注意を向ける先としてよく用いられるのが、呼吸や、音、感覚、動きなどだ。100mを走る私が集中する時は、「地面から受け取る反発が頭に抜けていく感覚」に集中したり、「臀部に伝わる地面からの衝撃」に集中したりする。思考や感情はコントロールできないが、どこに注意を向けるかは、自分で訓練することが可能であり、高い集中力を保つことができるのだ。このように緊張したり不安になって過去や未来に意識が向かってしまう時に、何に注意を向けるかをあらかじめて用意しておくことが、大事なのだ。また、同時にそのアクションが、準備編で扱った自分の大切な価値観に紐づいていることも大切である。

以上の3つのスプテップに沿ってマインドフルネスの訓練を行った結果、本で扱われていた競泳選手は、リオデジャネイロオリンピックでメダルを獲得する。

この本で興味深かったことは、オリンピックで起こりうる様々なことを事前に想定していたことである。つまり選手村の宿舎、ウォーミングアップ場、記者会見場、そして試合会場など、あらゆる場所で、不安になったり緊張したりすることを事前に想定していたことだ。そして、不安になったり、緊張したりした時に、どのように対処するかを決めていたのだ。彼女の場合は、レースプラン、自分の価値観、そして、呼吸法を通じて、「今、ここ」に注意を向ける訓練していたことである。こうした訓練も、ガヤガヤとした会場など様々な場所で実施している。試合の状況を事前に想定するイメージトレーニングにも通じると思うが、緊張することを折り込んで、気持ちを立て直すプランを持っておくことの大切さを強く感じた。

Comments

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *