「自ら考え、成長する選手」が育つチームとは?

私が入部した陸上部は、動物園だった

わたしは、かつて野球部に所属していました。

野球が好きで入部したのですが、2年も持たず退部することになります。

それは、その指導者の下では野球が楽しくやれなかったからです。

高圧的な態度の指導者は、部員にとっての恐怖の対象で、失敗を恐れてプレーすることなんぞ、とても叶わなかったからです。

最終的に私を含めて、過半数の部員がやめたと思います。

その後、私は陸上部に入部することになるのですが、それは、とても、とても「よい」環境でした。

指導者が自分の考えを押し付けるようなことはせず、部員の個性をとても大切にする文化があったからです。

アニメのキャラクターがどでかく描かれたシャツを着て、練習するいわゆるオタクな部員もいました。

附属の高校にそのまま進学すると、陸上部には指導者はいませんでした。

そんな中、同期の一人が中心となって練習メニューを考え、それを早朝と放課後に必死になって取り組みました。

明け方に月を眺め、夕方にどれだけ月が動いたかを、みんなで観察していたものです。

練習の質は本当に都内一だったと思いますし、そのあと、スポーツ推薦のある強豪高校をやっつけたのは、とても誇らしい経験です。

その後も大学でも陸上を続けましたが、そこでも常駐のコーチはおらず、

様々な人からの意見を取り入れて練習メニューを作っていました。

うまくいったこと、うまくいかなかったことのすべてが自分の責任、という環境でスポーツをやることは、私のスタンダードになりました。

自ら学び、挑戦する選手を育てる環境とは

選手が自ら学びを求め、主体的に成長していく選手が生まれる環境には何か特徴があるのでしょうか。

自己決定理論(Self-Determination Theory)によると、そもそも、人は自ら困難に挑戦し、

新しい技能を習得しようとする傾向があると言われています。

その傾向を阻害させないために、以下の3つの基本的な欲求が満たされている必要があります。

1.自主性(Autonomy)
2.有能感(Comepetence)
3.関係性(Relatedness)

自発性は、選手に選択する自由を与え、自らの意思決定をする機会を作ることです。

一方的に指導者から練習メニューを与えて、その練習をさせることではありません。

自分に足りていない能力や技術を考える機会を与え、そのために必要な練習を自ら考え実行する環境を整備することが不可欠になります。

一方で、放任していても、選手が勝手に伸びるわけではありません。

選手からアドバイスを求められた際に、「適切な」フィードバックを与えることが、指導者には求められます。

適切なフィードバックの一例としては、客観的な指標に基づいて、選手の能力の変化を伝えて上げることです。

また、選手自身に目標設定を促すことで、目標達成に向けた取り組みを通じて、

今までできなかったことができるようになったり、「やればできるんだ!」という達成感を感じてもらえるようなことも期待できます。

そして、最後に関係性が指摘されていますが、「誰かに貢献できている」とか、

逆に「自分はたくさんの人に支えてもらっている」ということを感じたいという、何とも人間らしい欲求です。

上の二つは機械的に実施できることですが、やはり選手の声に真摯に耳を傾けて、

選手が自分の存在を大切に考えてもらっている、尊重されているんだという実感を得ることがとても大切になってきます。

選手としてだけではなく、1人の人間として、競技以外の面でも気にかけてもらえるととても嬉しいですよね。

ハードル強国日本の総本山:順天堂大学

近年は国際大会の決勝の舞台でも多くの日本人ハードル選手を目にします。

そして、その多くが順天堂大学出身であることは注目に値すると言えるでしょう。

その強さの秘訣に迫ったインタビュー記事では、まさに自己決定理論と多くの点で符合していることに気が付きます。

以下、順天堂大学の山崎一彦教授、村竹ラシッド選手、阿部竜希選手のインタビュー: 順天堂大学、Good Health Journalからの抜粋です)

山崎教授: 
ぼくは選手に「昔の話をしている人は伸びない」とよく言います。(中略)2人はそんなところが全然なくて、

「これをやりたいけど、どうしたらいいですか」、「こうなりたいと思いますが、この練習していいですか」といった相談ばかりをしてきます。

そういう人は伸びます。

村竹選手: 
山崎先生から頻繁に細かいことを言われるわけではありませんヒントすらくれない時もあります(笑)

こちらからアウトプットして、先生と話し合うケースが多いのですが、自分がまず純粋に走ってみたりハードルを跳んでみたりして、

どう思ったのかをちゃんと言語化してから動かしていく感じです。きちんとアウトプットしたら、それを先生が整理してくれて、

一緒に見返し、色々とすり合わせ次に生かしていく。

以上のコメントから、まずは選手に課題やその対策を考える機会を与え、

自分の中で整理し、言語させていることが分かります。その上で、コーチとして感じたことを、

決して押し付けるのではない形でフィードバックしていることがわかることでしょう。

山崎教授:
答えはあるようでないと思っています。私が言うことが選手の答えじゃないかもしれないですし、

感覚や動きは選手によって違います。元来の動きを崩さないようにしないといけない。

それぞれのポリシーやプライドもあるので、そこを頭ごなしに「こうだよ」と言わないように気を付けています。

話しやすい環境を常に作っているつもりなので…。

最後に山崎教授は以下のような、とても興味深い発言を残しています。

大学のコーチである以上、大学在学中の選手の成績、そしてインカレなど全国大会での成績が求められる重圧はあるでしょう。

しかし、短期的な成功ばかり求めることはせず、長くスポーツを楽しんで欲しいという指導理念はとても共感できるものです。

実際、選手の自発性が奪われ、頭ごなしに指導される環境で育つ選手の多くは、燃え尽き症候群になる割合が高いという研究もあります。

山崎教授:
私は選手には長く競技をやってもらいたいと思っていて、大学も楽しいけど、卒業してからが本当の楽しい陸上競技だと思っています

勉強とスポーツは両立できる。桐朋高校の考える陸上競技

考える力は勉強:桐朋高校

もう一つ事例をあげると、東京の私立桐朋高校は「進学校」として名高い高校でしたが、

近年は陸上競技でオリンピック選手など、国際大会で活躍する選手まで輩出するようになっています。

十種競技の高橋諒選手(新3年・慶大)、走幅跳びの細萱颯生選手(新3年・慶大)、

800mの吉澤登吾選手(新2年・東大)の三人のインタビュー記事の抜粋が以下となります。(慶應スポーツ新聞会)

細萱選手:
僕が慶大を目指した理由は、桐朋と練習スタイルが似ているところが大きいです。

自分で練習メニュー、テーマ、今日何したいかなどを決めながらやっていくというスタイルで中高6年間やっていたので、

それを慶應でもできるという風に聞いて選びました。

吉澤選手
陸上については、僕は縛られなければどこでもいいかな、と考えていました。

(中略) 今まで通り自分で練習を考えながらやりたいなと。そこもちょうど東大とマッチしたのもあって、東大を目指しました。

このようにみてくると、スポーツで結果を出すことと、

学業が優秀であることは決して二律背反ではなく、むしろ共通した資質があるように思われます。

勉強もスポーツも、自分に足りていないことを冷静に分析し、必要なことを自分で考え、

実行するというサイクルを回すということでしょう。

そして、周りの大人はとやかく口を挟まずに見守り、

フィードバックを求められたときに、適切なアドバイスを求められることが必要になるのでしょう。

1.自主性(Autonomy)
2.有能感(Comepetence)
3.関係性(Relatedness)

を育むような環境づくりが今後も大事になってくるのではないでしょうか。

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